地域で創る再エネに参加する:市民出資・共同事業の始め方
再生可能エネルギーへの関心が高まる中、ご家庭での省エネやリサイクルだけでなく、「もっと社会に貢献したい」と考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。地域で自らの手で再生可能エネルギーを生み出し、その恩恵を地域全体で享受する「市民参加型再エネプロジェクト」は、そうした思いを実現する有力な選択肢の一つです。
この記事では、中でも「市民出資・共同事業」と呼ばれるタイプのプロジェクトに焦点を当て、その具体的な仕組みや参加方法、そして検討すべきポイントについて詳しく解説いたします。
市民出資・共同事業とは何か
市民出資・共同事業とは、地域の住民が資金を出し合い、太陽光発電所や風力発電所などの再生可能エネルギー発電施設を建設・運営するプロジェクトを指します。一般的な企業が主導する事業とは異なり、地域の人々が主体となって事業を進める点が大きな特徴です。
この事業の主な目的は、単に利益を追求することだけではありません。多くの場合、地域のエネルギー自給率向上、地域経済の活性化、そして環境教育や環境意識の向上といった、幅広い地域貢献を目指しています。
専門用語として「出資」という言葉が出てきますが、これは事業の資金を出すことを意味します。株式会社の株式購入と似ていますが、市民出資の場合、金銭的なリターンだけでなく、地域への貢献や環境活動への参加といった非金銭的な価値も重視される傾向にあります。
また、再生可能エネルギーの普及を後押しする制度として「FIT(固定価格買取制度)」があります。これは、再生可能エネルギーによって発電された電気を、国が定めた価格で一定期間、電力会社が買い取ることを義務付ける制度です。これにより、市民出資による発電事業も比較的安定した収益を見込めるようになり、プロジェクトの推進に役立っています。
プロジェクトの具体的な種類と仕組み
市民出資・共同事業には、主に以下のような種類があります。
1. 市民ファンド型
特定の再生可能エネルギー発電プロジェクトのために、地域住民や支援者から少額の資金を募る形態です。NPO法人や特定非営利活動法人、協同組合などが運営主体となることが多く見られます。
- 仕組み: 集められた出資金は、太陽光パネルの設置費用や風車の建設費用、運営費用などに充てられます。発電された電気はFIT制度などを活用して電力会社に売却され、その売電収入の一部が運営費用や出資者への配当、さらには地域貢献活動(環境教育や地域イベントへの協賛など)に使われることが一般的です。
- 例: 地域の小中学校の屋根に太陽光パネルを設置するプロジェクトや、地域の未活用地を活用した市民共同の小規模風力発電所の建設などが挙げられます。
2. 地域電力会社型
地域住民が主体となって出資・設立した電力会社が、自地域の再生可能エネルギー電源を開発・運営し、地域内で電気の供給までを行う形態です。
- 仕組み: 出資者は会社の株主となり、会社の経営方針や事業計画にも関与できる場合があります。地域の電力会社として、発電から供給までを一貫して行うことで、エネルギーの地産地消を実現し、地域経済への資金循環を促します。
- 例: 全国には、地域資源を活用した電力供給を目指す「地域新電力」と呼ばれる会社が多数存在します。これらの地域新電力の中には、地域住民からの出資を受け入れているケースもあります。
参加方法と関わり方
市民出資・共同事業への参加方法は、主に資金提供が中心となりますが、プロジェクトによってはより深く関わることも可能です。
1. 資金提供(出資)
最も一般的な参加方法です。少額(数万円から)で出資を受け付けているプロジェクトが多く、気軽に始めやすいのが特徴です。
- 期待できるリターン:
- 金銭的なリターン: プロジェクトの収益に応じて、年数パーセント程度の配当が支払われる場合があります。ただし、一般的な投資商品と比較すると、配当率は控えめであることが多いです。
- 非金銭的なリターン: 地域に根ざした再生可能エネルギーの推進に直接貢献できる満足感、地球温暖化対策への寄与、そして地域コミュニティの一員としての連帯感を得られます。
- 考慮すべきリスク:
- 元本割れのリスク: 投資と同様に、事業が計画通りに進まなかったり、予期せぬトラブルが発生したりした場合には、出資金が減少したり、戻ってこなかったりする可能性もゼロではありません。ただし、市民ファンド型の多くは、事業計画を慎重に立て、リスクを最小限に抑える努力をしています。
- 事業の遅延や中止: 許認可の取得が難航したり、建設費用が高騰したりすることで、事業の開始が遅れたり、最悪の場合中止になったりするリスクもあります。
2. 運営への参加
一部のプロジェクトでは、出資者が運営委員会に参加したり、イベントの企画・運営を手伝ったりするなど、より能動的に関わる機会を提供しています。具体的な活動内容はプロジェクトによって異なりますが、地域貢献の実感を強く得られるでしょう。
3. 情報提供・普及活動
直接的な出資や運営参加が難しい場合でも、プロジェクトの情報を友人や知人に伝えたり、SNSなどで共有したりすることも、立派な参加方法です。多くの人々にプロジェクトを知ってもらうことで、その輪を広げることに貢献できます。
メリットとデメリット(考慮すべき点)
市民出資・共同事業に参加する際は、以下のメリットとデメリットを総合的に考慮することが重要です。
メリット
- 地域への貢献: 地域内でエネルギーを生み出し、消費することで、エネルギーの地産地消を促進し、地域経済の活性化に直接貢献できます。
- 環境意識の向上: 地域の身近な場所で再生可能エネルギーの現場に触れることで、環境問題やエネルギー問題に対する理解を深めることができます。
- コミュニティ形成: 共通の目標を持つ地域住民との交流が生まれ、新たなコミュニティの形成や活性化に繋がります。
- 情報開示の透明性: 市民が主体であるため、事業内容や収支状況について比較的透明性が高く、安心して参加できるケースが多いです。
デメリット・リスク
- 金銭的リターンの限定性: 一般的な金融商品と比較して、得られる配当やリターンは高くないことが多いです。地域貢献を主眼とするため、過度な利益は追求しません。
- 事業リスク: 上述の通り、元本割れのリスクや事業の遅延・中止のリスクは存在します。そのため、出資前には必ず事業計画やリスク説明をよく確認することが重要です。
- 情報収集の手間: 地域の特性やプロジェクトの内容が多岐にわたるため、ご自身に合ったプロジェクトを見つけるためには、情報収集や比較検討に一定の手間がかかる場合があります。
- 参加機会の地域差: 地域によっては、市民出資・共同事業の選択肢が限られていることもあります。
まとめ
市民出資・共同事業は、「地域のために何かしたい」「環境問題に貢献したい」という思いを持つ方にとって、非常に魅力的な選択肢です。少額からの出資で、直接的に地域の再生可能エネルギー推進を支援し、その成果を実感できることは大きな喜びとなるでしょう。
ご自身の関心度やリスク許容度に合わせて、資金提供、運営への参加、情報普及など、様々な形で関わることができます。まずは、お住まいの地域のNPO法人や自治体のウェブサイトなどで、どのような市民参加型プロジェクトが実施されているか調べてみることから始めてみてはいかがでしょうか。
あなたの一歩が、持続可能な社会の実現に向けた大きな力になります。